INTERVIEW

太田 浩史 (大福寺住職)
OTA Hiroshi

・1955年富山県生まれ。
・真宗大谷派大福寺住職
・日本民藝協会常任理事
・となみ民藝協会会長

土地に根付いた信仰心や思想を表す「土徳」のこころを伝えている。

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》城端と民藝のご縁について

― 太田さんは大福寺の住職を務めるかたわら、日本民藝協会常務理事、となみ民藝協会会長として、民藝運動の創始者・柳宗悦が唱えた、その土地に根付いた信仰心や思想を表す「土徳」のこころを伝えていらっしゃいます。 今回は民藝をテーマに、まずどのような経緯で城端に柳たちが導かれたのかについてお話をうかがいました。

太田「柳宗悦と親交の深かった板画家・棟方志功が、戦時中に南砺市へ疎開した折、城端・真覚寺の僧であり画家の石黒連洲と出会い、意気投合したことが、のちに民藝の同人たちを城端へ呼び寄せる流れを作ったと考えられます。戦時中は板木が手に入らなかったため、棟方は肉筆画を描くようになり、年上の石黒とともに五箇山へスケッチ旅行に出かけていたと聞いています。画家としてもお互いによい響き合いがあったようですね。城端と民藝との関わりは、人と人とのご縁で結ばれていったのだといえます。」

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城端別院善徳寺内にある柳宗悦の石碑

―そもそも民藝には、どのように触れていけばよいのでしょうか。

太田「大福寺の山門を上がったところに、諸国民藝の品々を展示した部屋を設けています。部屋全体が独特の空気を醸し出しており、ここに来れば民藝というものを肌で体感できるのではないでしょうか。これらの手仕事の民藝は、民族、宗教、国境、そして数千年の時を越えて集まっているにもかかわらず、違和感がありません。まさしく平和そのもの。平和とは、すなわち調和なのです。すべてが調和しているエネルギー(気)を空間から感じとっていただけるとうれしいですね。」

》絹織物と信仰、民藝との関わり

― 日本の絹といえば、着物などの身に着けるものを連想しがちですが、文化や信仰にも深い関わりがあるそうですね。

太田「日本の絹織物は、衣以外にも、掛け軸などの表具の素材として発展したという歴史があります。古来より良質な絹を生産してきた日本は、絹を特別なものとして神聖視してきました。そのため、仏教の伝来とともに表装の技術がもたらされた際、仏教絵画を最高の材料で装飾するために、絹が用いられたようです。

南砺市においては古くから養蚕が盛んで、奈良時代の荘園跡から、東大寺で使う絹を生産して輸送していたという記録も見つかっています。また、大陸に近い富山県に多くの渡来人が移り住んでいたことも、機織り技術の発展につながったと考えられます。」

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仏壇の扉に使われているしけ絹紙

太田「城端別院・善徳寺においては、お坊さんの袈裟、内敷、経本の表紙などに絹織物が使われています。お寺というものは、絹や和紙など、自然の素材でできているんですね。身近なところでは、ご家庭の仏壇の扉に城端のしけ絹が装飾として施されているのが見られます。

民藝は風土性(土地の物語)を重要視しており、その土地由来の食文化、民謡、方言などが、ものづくりに反映されていると考えます。こうした歴史、文化、信仰など、さまざまな要素が組み合わさって、その地域ならではの独自性が築かれていくことが、民藝の奥深さです。」

》民藝と自然、そしてJOHANASの可能性

―民藝の定義について、太田さんの見解を教えてください。

太田「民藝とは何か。まず、美しくなければ民藝ではありません。実用性だけでなく自然の美しさ、もっと言えば『人間を通して自然が仕事したもの』が民藝です。ものを生み出そうとする意志は、じつは自然に有り、それを人間が伝統、技、個性を発揮し、生まれたものが人の心を打つのだと思います。手入れをされていない山より、自然と人が共存する里山のほうが美しいでしょう? わたしたちは自然の一部であり、風土を共有する仲間であることを忘れてはなりません。」

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城端の風景

太田「なぜ民藝(Folk Craft)はPeopleでもCitizenでもなく、Folkなのでしょう? Folkとは、我々という意味で『わたしにとってかけがえのない大切な人々』を表しています。

世界四大文明をはじめ、いくつかの諸外国は自然を植民地化してきました。彼らにとって自然は、屈服させるか折り合いをつけるかであり、自然と取引をする必要はないと考えたのでしょう。日本は縄文時代が長かったせいもあり、自然を異物と見なさず、さらに全てのものに神が宿るという思想も持っています。

しかし不思議なことに、世界の民藝には、自然と調和した実用品であるという共通点があります。自然と対立しない、不二(元はひとつ)という概念です。すなわち、これは日本に限らず、ものづくりにおいて基本的なあり方なのでしょう。」

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―この地で育まれてきた絹織物を、より身近なものにしていきたいという思いからJOHANAS(ヨハナス)というブランドを立ち上げました。そこで最後に、JOHANASにおける民藝的な可能性についてメッセージをお願いします。

太田「これまで民藝の条件として、あまり注目されてこなかったものがあります。それは『健康』です。柳宗悦も、健康の美について幾度も語っています。やはり素材が人と自然の健やかさに貢献しなければ、民藝としても真の調和となり得ないのではないでしょうか。

絹には、健康にいい何かがあると感じています。絹が古代から珍重されたのは、見た目の美しさだけでなく、実用品として触れることで体感する、健康の美があったからでしょう。素材と人が響き合い、細胞レベル以上に素粒子レベルで感じる美しさが、絹には宿っているのかもしれません。」